クリニックのクレーム対応
〜ペイシェントハラスメントへの具体策とは〜
【更新日】2024/12/24
昨今、患者様からのクレーム対応に頭を悩ませるクリニックが増えてきています。
クリニック内で医師やスタッフに対して、理不尽な要求や、根拠のないクレームを繰り返すなどの迷惑行為を行うケースが見られており、こうした迷惑行為は「ペイシェントハラスメント(ペイハラ)」とも呼ばれています。
こうした迷惑行為が増えてきている一方、十分な対策をしていないクリニックも多いのではないでしょうか。
ここでは、既に開業されている先生に向けて、クリニックのペイシェントハラスメント及びクレーム対応策について、説明してまいります。
ペイシェントハラスメントとは

ペイシェントハラスメントとは、医療従事者が患者様やそのご家族から受ける暴言・暴力、セクシャルハラスメントを含む迷惑行為のことを指し、略してペイハラとも呼ばれています。
具体的には、以下のような行為がペイハラに該当します。
- 大声で怒鳴る、威圧的な態度をとる
- 執拗な治療要求
- 根拠のないクレームの繰り返し
- 長時間の説明要求や執着的な引き留め 等
医療機関で迷惑行為が多い背景
では、なぜ医療機関でこうした迷惑行為が起こりやすい環境にあるのでしょうか。
提供される医療への期待値の高さ
医療現場は顧客(患者様)との接触頻度が高く、一般的なサービス業とは異なるプレッシャーがかかっていることから、迷惑行為が発生しやすいともいわれています。
例えば、予約制の利便性は満足度を高める一方で、予期せぬ遅延や対応ミスが不満に繋がりやすく、これが積み重なるとペイハラに発展することもあります。
参考
- 厚生労働省:職場のハラスメントに関する実態調査報告書
医療のサービス化
かつては「待つのが当たり前」だった医療機関も、現在は他院との差別化のため、利便性や接客といったサービス面に注力しているところが多くなっています。
また、ホームページなどで事前に情報収集できるようになったことで、新しい医療機関への受診ハードルが下がり、患者様の期待値もより高くなっています。
この結果、小さな不手際が不満を生むケースが増加しています。
医師と患者様の医療知識の差
以前は、医師の指示絶対的なものとされていましたが、インターネットの普及により、患者様もある程度の医療知識を持つことが一般的になりつつあります。
しかし、インターネット上の情報には誤りが含まれる場合もあり、個々の事情に応じて検査や治療方針が異なるケースも少なくありません。
そのため、患者様が収集した情報と診察結果が異なる場合、「求めていたものと違う」と感じ、このようなズレが大きくなると、ペイハラに発展するリスクも考えられるでしょう。
患者様の権利意識の向上

インフォームドコンセントの普及やメディアの影響で、患者様の権利意識が高まり、「医師と対等に話したい」という考えが強まっています。
そのため、説明や治療方針に納得できない場合、不満が生じやすくなっており、こうした不満がクリニック内にとどまらず、SNSやGoogleの口コミを通じて拡散されるケースもみられています。
このような背景により、医療機関にはより丁寧で分かりやすい対応が求められる状況が生まれています。
クレーム対応は改善のヒントに
こうしたクレーム要望が増える中、これらの意見は必ずしも悪いものではなく、改善点や患者様の期待を知る貴重な機会になることもあります。
ただし、度重なるクレームや過剰な要求は、スタッフに大きな精神的負担を与え、最悪の場合は退職に至るリスクも伴います。
したがって、こうしたクレームに対応しつつも、スタッフが無理なく働ける環境を維持するための整備が欠かせません。
医療機関におけるクレーム対応
では、実際にクレームが発生した場合には、どのように対応するのが良いのでしょうか。
クレーム対応のポイント
クレーム対応の基本は、複数のスタッフで、迅速かつ丁寧に行い、「患者様の声を真摯に聴く」姿勢を徹底することです。
患者様の主張や不満をしっかり受け止め、本当の不満がどこから来ているのか、原因を探る努力が求められます。
話を聞き終えた後、クリニック側では関係者から事実確認を行い、原因の究明や解決策を検討します。
これらの結果は、できるだけ早く患者様に説明し、必要あれば謝罪を行うようにしましょう。
ただし、無理な要求については、対応を慎重に判断することも重要です。
クレーム対応のチェックポイント
以下の点を意識して、対応するようにしましょう。
- 数人で対応し、患者様とのやり取りは、メモなどで記録を取ること。
- 患者様の話をさえぎらず、共感の意を示し徹底して傾聴すること。
- 推論や状況で原因究明せず、客観的事実に基づいた真の原因究明をすること。
- 患者様への回答は極力早めにし、不確かな回答は行わないこと。
- 金銭の支払いなどについて、安易な回答や約束をしないこと。
- 事実を確認したら、誤解を解くために十分な説明をすること。
- 「できる」ことと「できない」ことの区別を明確にし、「できない」要求には応じないこと。
- 執拗に同じ要求を繰り返す場合や、膠着状態に陥った場合には、直接交渉を打ち切ること。
- 第三者の意見を聴き、主張に客観性を持たせること。
環境の整備
マニュアルの整備
クレームが解決した後は、再発防止のため、内容を共有し、改善策をクリニック内で浸透させることが大切です。
クレーム対応の手順をマニュアル化し、スタッフ全員が対応できる体制を整えておくと、スムーズな対応が可能となります。
対応方針の掲示
クリニックの待合室やホームページ上に、対応方針を掲示することも予防策の一つです。
特に、予約システムや診察までの待ち時間に関する案内も含めると、クレームを未然に防ぐことにもつながります。
警備サービスの活用
昨今では、通常の警備会社ではなく、緊急時に直接警察に通報がいくサービスも登場しています。
安心感に加えて、迷惑行為に対応しきれない場合を見越した有効な手段の一つといえるでしょう。
ですが、実際にクリニックに警察が来るとなると、周辺住民やテナントから「何かあったのか」と不安を感じさせてしまう場合もあります。
導入にあたっては、他の患者様やスタッフの安心を保つために、適した体制を慎重に検討することが大切です。
適切な対策を行いましょう
ここまで、クリニックのペイシェントハラスメント及びクレーム対応・対策についてお伝えしてまいりました。
迷惑行為の対応でスタッフの方が疲弊してしまわないよう、また、他の患者様にも被害が出ないよう、前もって対応方針を決めて対策を行うことが重要になってきます。
こうした対策を講じ、いざというときの対応力を高めることで、患者様・スタッフともに安心できるクリニック作りにつながるといえるでしょう。