クリニックの人件費:物価高騰、最低賃金上昇への対応

クリニックの人件費:物価高騰、最低賃金上昇への対応

物価高騰に伴い、各事業では従業員の賃金上昇が話題となっています。

最近では、ユニクロ(ファーストリテーリング)が新卒の初任給を30万円としたことなども大きなニュースとなりました。

また、2023年4月に入り、厚生労働省は、最低賃金引き上げの目安を示す区分を4つから3つに減らすと決定し、地域間の格差を見直すことで、日本全体の賃金底上げにつなげる動きもみられています。

こうした社会の流れは、これからクリニックの開業を検討している先生、準備を進めていく先生にとって、採用における給与要件に影響してきます。

また、既に開業されている先生たちにとっては、今いるスタッフさんへの給与や賞与額に大きな影響を与えるのではないでしょうか。

今回は、こうした背景をもとに、「物価高騰や最低賃金上昇に対する人件費の見直し」をテーマに、人件費の考え方や人への投資としての考え方といった側面からお伝えしてまいります。

参考

医療機関への影響

原油価格や物価高騰、光熱費の上昇など、クリニックにかかる負担は増えている一方で、医療機関は診療報酬などによる制限により、価格を変えることはできません。

こうした状況を踏まえ、各自治体では、医療機関の負担軽減を目的とし、支援金の交付など行いましたが、非常に限定的な範囲にとどまりました。

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人件費率について

これまでお伝えしてきた「賃金の上昇」という社会的な要求から、昇給の幅や賞与の設定をしなければいけないと思いつつ、「実際どのくらい増やすのが良いのか」、「目安はあるのか」などと悩む先生も多いことでしょう。

まずは、ご自身のクリニック全体の売上に占める人件費の割合を確認し、バランスがとれているか判断することが大切です。

ただここで注意していただきたいのが、科目や開業エリアによっては、人件費率の目安が異なるということです。

例えば、運動器リハビリテーションを行う整形外科では理学療法士(PT)が多くなり、専門職の方を採用する分、人件費は大きくなります。

また、都市部で開業しているのであれば、そもそも最低賃金が高いという点にも注意しなければなりません。

人件費の捉え方

もちろん、人件費をある程度の固定費として捉えると、人件費を抑えていく方が実際の利益が増えるというのも事実です。

ただここで先生におさえて頂きたいのが、人件費を「人への投資」として考えるということです。

「人への投資」とは

仮にこうした社会情勢のなかで、低い給与を支払い続けていた場合、不満を持ったスタッフさんが離職するという可能性もゼロではありません。

万が一、離職されてしまったとして、新しくスタッフさんの採用を行うにしても、求人媒体に掲載する費用や、面接を行う先生の精神的疲労が伴います。

また、最近は売り手市場とのこともあり、募集をかけたとしても、なかなか集まらないといったケースも少なくありません。

こうした点を踏まえ、現在働いているスタッフさんを定着させる、優秀なスタッフさんに長く働いてもらうためにも、「人に投資する」というように人件費を捉えることもできます。

人への投資の手段

では、実際に人への投資と捉え、人件費を上げるとした場合、どのような方法があるのでしょうか。

主に以下の4点が挙げられます。

基本給を上げる

まず挙げられるのが、基本給を上げるということです。

ベースアップになるため、スタッフさんが退職するまで支払い続けることになります。

この点は意識する必要があるでしょう。

最近は全国的に最低賃金上昇が話題になっており、採用する際の求人票には注意です。

クリニックのある都道府県ごとに最低賃金は決定されており、求人票の給与記載はその最低賃金以上で記載しなくてはいけません。

これから掲載される際には最低賃金はいくらか把握しているべきですし、現在掲載中の求人票の記載にも注意しましょう。

また、既存のスタッフさんの賃金が最低賃金以上になっているのかも確認しましょう。

例えば東京都では2021年は1,041円、2022年には1,072円、そして2023年には1,113円と引き上げを続けています。

参考:厚生労働省 東京労働局:賃金・最低賃金・家内労働関係
厚生労働省 東京労働局:東京都最低賃金を1,113円に引上げます

賞与額を上げる

2つ目は、賞与額を上げることです。

こちらは基本給を上げるのとは異なり、賞与を渡す一度のタイミングで済むため、継続的に行うというものではありません。

ただし、賞与額を上げる場合、前回や次回の賞与とのバランスを考慮する必要があります。

手当の補充

手当として追加で支給するというのも一つあります。

この場合、繁忙期など何らかの期間限定で支給するため、調節がしやすいというメリットがあります。

福利厚生の充実

最後は、福利厚生を充実させるということです。

事業主である先生が負担することになり、スタッフさんの数が多くなればその分負担は増えるという点には注意が必要です。

また、先生がこれらを管理するとなると、新たに手間が発生する場合もあるので、先生ご自身にかかる負荷も考慮する必要があるといえるでしょう。

どのような点に注意すべきか

これまで「人への投資」としての側面から人件費についてお伝えしてまいりました。

これらを踏まえ、先生ご自身でどのようにするか判断することが求められます。

どのようなスキルを持った人をキープし、どのくらい投資するか、またこの判断が適切なのかを考える際に、第三者の視点を入れることも一つの手段です。

まずは、他院ではどのように行っているのか、知り合いの先生に聞いてみるのも良いでしょう。

また、経営支援を行うコンサルティング会社などとともに、人件費率を確認し、適切か否かを判断していくのもより良いクリニック経営に導く手段の一つといえます。

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