クリニックにおける就業規則の必要性
クリニック開業後も先生につきまとうお悩みの一つに、スタッフ問題があります。
スタッフがクリニックで働いているときはもちろんですが、退職後のトラブルもいくつか見られており、場合によっては、不当解雇として先生が訴えられるというケースもあります。
ここでは、こうしたトラブルを防止するにはどのようにすればよいのか、クリニックにおける就業規則の必要性について説明してまいります。
就業規則とは
先生とスタッフ間のトラブルを未然に防ぐ対策の一つに就業規則の作成が挙げられます。
就業規則とは、労働者の賃金や労働時間などの労働条件や服務規程など、職場内の規律について定めたものです。
労働基準法に基づき、常時10人以上の労働者を使用する場合は、就業規則を作成し、労働基準監督署に届け出る必要があります。
なお、常時10人とは、常勤だけでなく、パートなどの非正規雇用のスタッフも含めて計算します。
また、スタッフの入職や退職がある場合でも、常時10人以上のスタッフがいる場合には、就業規則を作成する必要があります。
したがって、専門職のスタッフが多い、整形外科などのクリニックでは、上記要件に該当することも多いでしょう。
参考
- 厚生労働省:「就業規則作成の手引き」
クリニックで就業規則が必要な理由
裏を返せば、常時10人未満であれば、必ずしも就業規則を作成する必要はございません。
しかし、以下の理由から就業規則の作成をおすすめいたします。
合理的に辞めてもらう手段を持っておく
一つは、問題のあるスタッフを辞めさせる手段を持つことができる点です。
スタッフに問題があるという場合でも、労働者保護の観点より、解雇については厳しく制限されており、合理的な理由がない限り、解雇することはできません。
また、解雇できる場合についても下記のようにかなり限定的です。
“(解雇)
第十六条 解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。“
引用元:労働契約法第16条
したがって、スタッフに辞めてもらう場合は、あらかじめ作成した就業規則に沿って、就業条件や雇用条件をきちんと明記しておくことが前提となります。
就業規則に反しているスタッフがいるときには、違反という合理的な理由をもって、注意や指導などの段階的な手続きを経ても問題が改善されない場合に辞めてもらうことができます。
先生とスタッフのトラブルを防ぐ
就業規則作成のもう一つのメリットとして挙げられるのが、スタッフからの不満を防ぐことができる点です。
労働条件を明確に記載しておくことで、認識のズレが生じにくくなり、トラブルのリスクを減らすことができるでしょう。
参考
- 厚生労働省:「労働条件・職場環境に関するルール」
就業規則には何を記載すれば良いのか
就業規則には労働条件などのクリニック内の規律について記します。
そのなかで、重要な項目の一つに懲戒規定の策定があります。
懲戒規定について
先ほどもお伝えした通り、辞めてもらいたいスタッフを簡単に解雇することはできません。
「患者様からのクレームが何度もあった」、「遅刻や欠勤を繰り返している」などの理由でも、いきなり解雇してしまうと、雇用主である先生が労働基準法違反で訴えられてしまうこともあります。
したがって、就業規則に懲戒規定を記しておくことが重要となります。
通常であれば、解雇の前段階として、注意・指導といった規定が記されます。
それらの対策を講じても問題が解決されない場合は、解雇に合理性が生まれるためスタッフを解雇できる可能性があります。
このようにトラブルを極力回避して辞めてもらうためには、就業規則内に懲戒規定をきちんと記しておくこと、また、雇用時に、就業規則の内容をスタッフに理解していただくことが大切です。
先生とスタッフを守るために
ここまで就業規則とは何かという点から、クリニックにおいて必要な理由について説明してまいりました。
スタッフ10人未満のクリニックでは就業規則の作成義務はなく、就業規則を作っても労働基準監督署に届ける義務もありません。
ですが、就業規則とは言わなくても懲戒規定を含む就業心得のような規定を作成することは有効です。
雇用契約を結ぶ際に、就業心得に基づき雇用契約を締結する形にしておけば、懲戒処分ができます。
社会保険労務士、または、医療経営に詳しい経営コンサルタントに相談されることをお勧めいたします。
このように、開業される先生は、経営者として、常に雇用のリスクを考えていくこと、また、クリニックの運営は少人数でまわしていくからこそ、一人ひとりのスタッフを大切にしていくことが求められます。