新規のクリニック開業規制~医師の偏在対策~
- クリニック開業
2025年12月の医療法一部改正案が成立し、外来医師が多い地域における新規クリニック開業における対策の方向性が明示されました。
これからクリニックを開業を検討する先生にとっては、偏在対策の一環として検討されている新規のクリニック開業規制が気になるという方も多いのではないでしょうか。
この記事では、閣議決定された内容に基づき、医師数の適正化及び偏在対策について説明してまいります。
目次
これまでの医師偏在対策の経緯
2020年度から都道府県が医療計画に「外来医師多数区域」を設定し、当該区域で新規開業する医師に在宅医療や救急医療など「地域で不足する医療」を担うよう求めるガイドラインが始まりました。
しかしこの仕組みは、努力要請にとどまり実効性に課題がありました。
2024年末に厚生労働省は「医師偏在の是正に向けた総合的な対策パッケージ」を取りまとめ、都市部開業抑制策を盛り込み、2025年12月5日に、このパッケージを反映した「医療法等の一部を改正する法律」が臨時国会で可決・成立しました。
あわせて、厚生労働省の諮問機関である中央社会保険医療協議会(中医協)において、令和8年度(2026年度)診療報酬改定の概要が決定され、医師偏在対策に関する具体的な対応方針が示されました。
2026年度診療報酬改定
2026年度の診療報酬改定では、外来医師過多区域での新規開業には『事前届出制度』が導入されます。
無床診療所の新規開設の場合、6カ月前の事前届出が必要となり、地域で不足する医療機能の中で、どの機能を担うかを届出することになります。
不足する機能を担えない場合、届出後のプロセスは次のようになります。
- 自治体による不足機能提供の要請
- 外来医療の協議の場で不足する機能を担えない場合の理由等を説明
- 要請に応じない場合は保険診療の指定期間が3年に短縮されたうえ、医療審議会への出席し、理由等の説明
- 従わない場合は再度不足する医療機能の提供を勧告され、保険診療の指定期間を3年以内に短縮され、診療所名も公表される
なお、従わない診療所は毎年外来医療の協議の場で説明を求められます。
さらに、地域で不足している医療機能等に係る医療提供の要請に応じず、保険医療機関の指定が3年以内とされた医療機関については、機能強化加算、地域包括診療加算及び地域包括診療料の対象としない等、評価が見直されることとなっています。
さらに、令和10年度(2028年度)の診療報酬改定では医師多数区域での診療報酬上でのディスインセンティブ措置の在り方も議論される見込みです。
【出典・参照】
医療法等改正を踏まえた対応について(3ページ目)
医療法等の一部を改正する法律の成立について(報告)
診療報酬改定について(4ページ目)
厚生労働省:令和8年診療報酬改定 個別改定項目
新規開業における管理医師の要件及び責務
医療法等改正を受けた療養担当規則等の見直しについて、中央社会保険医療協議会から答申が行われ、新規開業時の管理医師の要件及び責務が整理されました。
管理医師の要件
管理医師は、臨床研修修了後、以下のいずれかに該当することが求められるとされています。
- 病院において保険医として3年以上診療に従事した経験
- 一定の医療計画に基づく診療従事経験
- 日本専門医機構が認定する基本領域の専門医資格
- 公務員医師等として5年以上勤務した経験
- 上記経験を通算して5年以上となる場合
- 緊急承継等のやむを得ない事由がある場合
管理医師の責務
あわせて、管理医師には次の責務が課されます。
- 保険医が療養担当規則を遵守するよう監督すること
- 診療報酬請求や各種届出が適正に行われるよう監督すること
- 診療録や帳簿等の記録管理が適正に行われるよう監督すること
- 医療機関内外の連携を図り、地域医療に貢献すること
これらは、管理医師に対し、医療機関運営の実質的な責任を担う立場を求めるものと整理されています。
【出典・参照】
厚生労働省:医療法等改正に伴う療養担当規則等の所要の見直しについて(答申)
厚生労働省:別紙1(省令)
厚生労働省:別紙2(告示)
外来医師過多区域の候補区域案について
外来医師過多区域(外来医師多数区域)については、国が示す医師偏在指標を基礎として、全国の二次医療圏を相対的に比較する考え方が採用されています。
具体的には、全国330の二次医療圏を対象に医師偏在指標を算出し、上位の一定割合を医師多数区域、下位の一定割合を医師少数区域とする枠組みが示されています。
外来医師過多区域についても、この考え方を踏まえ、都道府県が医療計画の中で候補区域案を整理することとされています。
現時点では、外来医師過多区域の具体的な区域名は確定しておらず、各都道府県において検討・調整が進められている段階ですが、国が提示する外来医師過多区域の候補区域案が公表されています。
| 都道府県 | 二次医療图名 | 外来医師偏在指標の全国平均値との差が標準偏差の何倍か(1.5倍以上の圏域) | 可住地面積あたり診療所数の対全国值比 | 該当市区町村 |
|---|---|---|---|---|
| 東京都 | 区中央部 | 7.22 | 52.9 | 千代田区、中央区、港区、文京区、台東区 |
| 東京都 | 区西部 | 4.28 | 28.2 | 新宿区、中野区、杉並区 |
| 東京都 | 区西南部 | 3.56 | 26.98 | 目黒区、世田谷区、渋谷区 |
| 京都府 | 京都·乙訓 | 2.54 | 8.52 | 京都市、向日市、長岡京市、大山崎町 |
| 大阪府 | 大阪市 | 1.94 | 19.42 | 大阪市 |
| 福岡県 | 福岡·糸島 | 1.86 | 5.95 | 福岡市、糸島市 |
| 東京都 | 区南部 | 1.82 | 15.37 | 品川区、大田区 |
| 東京都 | 区西北部 | 1.74 | 18.47 | 豊島区、北区、板橋区、練馬区 |
| 兵庫県 | 神戸 | 1.58 | 5.73 | 神戸市 |
【出典・参照】
厚生労働省:医師確保計画の見直し等について(24ページ目)
【補足解説】外来医師過多区域と国・都道府県の役割
外来医師過多区域の設定にあたっては、国と都道府県がそれぞれ役割を分担しています。
国の役割
国は、次のような役割を担っています。
- 全国の二次医療圏を対象とした医師偏在指標の算出
- 医師偏在指標の算定方法や考慮要素の提示
- 医師多数区域・医師少数区域を相対比較で整理する考え方の提示
- 外来医師過多区域における新規開業希望者への要請や協議の枠組みなど、制度全体の方向性の提示
国は、全国共通で用いる客観的な基準や枠組みを示す立場にあり、特定の医療圏を直接指定するものではないと整理されています。
都道府県の役割
これに対し、都道府県は、
- 国が算出した医師偏在指標を基に、地域の状況を分析
- 医療需要や医療提供体制の実情を踏まえ、外来医師過多区域の候補区域案を医療計画の中で整理
- 外来医療の協議の場を通じた、新規開業希望者への要請内容や不足機能の調整
といった役割を担います。
このように、外来医師過多区域は、国が示す客観的指標を共通の土台としつつ、都道府県が地域の実情を反映して設定する仕組みとされています。
【出典・参照】
厚生労働省:医師確保計画の見直し等について
今後の見通しと留意点
今回の改正医療法は、医師偏在対策を法律レベルとして初めて制度化し、2040年の医療需要に向けた医療提供体制の設計の中核及び、開業の自由を維持しつつも外来医師の偏在を是正するために地域医療で必要とされる医療機能提供に応じた「調整」を導入することで、医師偏在対策への本格的に組み込んだ転換点といえます。
今後の議論及び制度設計、将来への見通しを十分に注意して動向をみていきましょう。
2026.1.23現在
ここまで、改正医療法及び2026年度診療報酬改定について、説明してきました。
ここから先は、医師数や偏在対策推進の背景について、紹介します。
医師数の適正化及び偏在対策推進の背景
クリニック数の増加
まずは、クリニック数の増加です。
厚生労働省が定めた「外来医師偏在指標」に基づき上位33.3%に該当する「外来医師多数区域」では、一定の取り組みが行われてきました。
ですが、実際のところ、クリニック数は増加傾向にあり、厚生労働省の調査によると、2024年時点で全国の無床診療所が99,792施設あるとされています。
【出典・参照】
厚生労働省:令和6(2024)年医療施設(動態)調査・病院報告の概況
都市部と地方の偏在
次に、医療提供に地域差があるという点です。
厚生労働省の調査によると、2024年時点で、東京23区(特別区)の人口10万人あたりの無床診療所数が117.9施設であるのに対し、政令市は87.7施設、中核市は81.9施設となっており 、地域によって医療機関数の差があることがわかります。
こうした状態が続いてしまうと、都市部では医師・診療所が過剰となる一方で、地方での不足が懸念されます。
【出典・参照】
厚生労働省:令和6年医療施設(動態)調査 都道府県編 第22表 人口10万対一般診療所数,開設者・都道府県-指定都市・特別区・中核市(再掲)・病床の有無・療養病床を有する一般診療所(再掲)別
医師の過剰問題
2020年度の医学部定員を前提とした推計によると、2029年頃には医師需給が均衡となり、医師の供給が過剰となることが見込まれます。
医学部の定員数に目を向けてみると、仮に2024年の医学部定員を維持した場合、2050年には、約85人に1人が医学部に進学する計算となっており、医学部定員数についても見直す必要があるといえるでしょう。

需要ケース1:労働時間を週55時間に制限等≒年間720時間の時間外労働相当
需要ケース2:労働時間を週60時間に制限等≒年間960時間の時間外労働相当
需要ケース3:労働時間を週78.75時間に制限等≒年間1860時間の時間外労働相当
【出典・参照】
財務省:「こども・高齢化」
医学部定員の適正化
将来的な医学部定員の適正化についても言及されています。
人口減少に対応した医学部定員の適正化のため、2026年度医学部定員上限は2024年度の定員以下とし、今後の医師需給状況を踏まえて2027年度以降の適正化の検討を速やかに行うものとされました。
【出典・参照】
内閣官房:「経済財政運営と改革の基本方針 2024(案)~賃上げと投資がけん引する成長型経済の実現~」
【まとめ】新規のクリニック開業規制~医師の偏在対策~
ここまで、医師の偏在問題及び対策について説明してまいりました。
- 2025年12月の医療法改正により、外来医師多数区域での新規クリニック開業に対する規制が強化
- 2026年度診療報酬改定では事前届出制度が導入され、地域で不足する医療機能を担うことが求められる
- 要請に応じない場合、指定期間短縮や診療報酬減算など、経営面への影響が生じる可能性がある
- 今後の開業では、地域医療の中での役割を踏まえた計画策定が重要となる
開業を検討している先生にとって、これらの動向は、開業の決心にあたる要素の一つともなり得るでしょう。
無料セミナー・無料相談のご案内
医師偏在対策の本格化により、今後のクリニック開業では、制度動向を踏まえた計画づくりがこれまで以上に重要になります。
とくに外来医師多数区域での開業を検討されている場合、事前届出制度や診療報酬への影響を正しく理解しておくことが欠かせません。
当社では、最新の制度改正を踏まえた無料セミナーや、開業予定地や診療方針に応じて整理できる無料相談を実施しています。
制度対応を見据えた開業準備として、ぜひご活用ください。
この記事の監修者 椎原 正
FPサービス株式会社 代表取締役
FPサービス株式会社創業者。中小企業診断士(経済産業大臣認定・国家資格)。
クリニックの開業および経営コンサルティングに長年携わり、事業計画策定や資金調達、
開業後の経営支援まで幅広くサポートしている。著書に『クリニック開業[実践]ガイダンス』
『<決定版>クリニック開業ガイダンス』(いずれも現代書林)があり、累計4,400部を突破。
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